コスト削減のシステムが、稼ぐ力を下げていた

利益率と回転率で見る投資判断

コスト削減のシステムが、稼ぐ力を下げていた(図解)

「年間〇円の削減」で通る投資

システム投資の提案は、たいてい「年間〇円のコスト削減」という一行で通る。削減の金額がはっきりしていれば、判断する側も納得しやすい。

自分のいた現場にも、システム開発のブームがあった。次々にシステムが作られ、どれも資産として計上された。提案のときに語られたのは、その時点での削減効果だった。

後が大変だった。保守費と運用費が重くのしかかってきた。どれも作るときには、しっかり見積もっていなかった費用だ。予算にもきちんと積まれていなかったので、年を追うごとに経費がかさみ、予算を圧迫していった。

なぜこうなったのかは、財務会計の教科書で、利益率と回転率の話を読んで整理できた。

稼ぐ力は、利益率と回転率のかけ算

教科書はまず、株主から見た稼ぐ力である自己資本利益率 (ROE: Return on Equity) を分解する。自己資本利益率は、本業の稼ぎだけでなく、借入の使い方でも上下する。そこで教科書は、本業の部分だけを取り出した正味営業資産利益率 (RNOA: Return on Net Operating Assets) に注目する。名前が長いので、以下では「本業の稼ぐ力」と呼ぶ。

本業の稼ぐ力は、本業で使っている資産に対して、本業でどれだけ利益を上げたかを表す。分母は正味営業資産で、在庫、売掛金、設備、ソフトウェアといった営業資産から、買掛金や前受金のような営業負債を引いたものだ。分子は税引後の営業利益になる。借入や余った資金の運用は、どちらにも入れない。マネージャーが動かせるのは、ほぼこの本業の部分だ。

本業の稼ぐ力は、さらに2つに分けられる。

  • 利益率: 売上のうち、どれだけが税引後の営業利益として残るか
  • 回転率: 正味営業資産の何倍の売上を上げているか

本業の稼ぐ力 = 利益率 × 回転率。同じ稼ぐ力でも、利益率で稼ぐ事業もあれば、少ない資産を速く回して稼ぐ事業もある。教科書は、利益率の高い事業ほど回転率は低くなりやすい、というトレードオフも示している。稼ぐ力を見るには、どちらか一方ではなく、両方を見る必要がある。

システム投資は、分子と分母の両方に効く

この枠組みでシステム投資を見ると、効き方は一つではない。

資産として計上したシステムは、正味営業資産を増やし、回転率を下げる。経費と資産の記事で書いたとおり、資産にしたシステムは、その後、毎年の償却費として利益から引かれていく。保守費と運用費も、毎年の費用として利益を削る。削減効果だけが、利益を押し上げる側に効く。

仮の数字で見てみる。話を簡単にするため、税金は考えず、初年度だけを見る。

ある部門の正味営業資産が10億円、営業利益が1億円なら、本業の稼ぐ力は10%だ。ここに1億円のシステムを作って資産に計上し、5年で償却する。削減効果は年3,000万円、保守・運用費は年1,000万円とする。

利益は、削減で3,000万円増え、償却費で2,000万円、保守・運用費で1,000万円減る。差し引きはゼロだ。一方で、資産は1億円増えて11億円になる。本業の稼ぐ力は約9.1%に下がる。保守・運用費を見積もりに入れていなかったら、提案の時点では、この投資は利益を1,000万円押し上げる投資に見えていたはずだ。

判断の目安は、単純に書ける。投資で増える利益を、増える資産で割ったものが、今の本業の稼ぐ力を上回るかどうか。この例では、保守・運用費を除いて計算しても、1,000万円 ÷ 1億円で10%にしかならない。今と同じで、稼ぐ力は上がらない。年がたてば償却が進んで資産は減っていくが、保守・運用費は使い続けるかぎり残る。

効果だけを見ていた

振り返ると、当時は効果のほうに目が行きがちだった。分子の、それも押し上げる側だけを見ていたことになる。

見落としは2つあった。1つは、毎年かかり続ける費用だ。保守・運用費は見積もりにも予算にも入っていなかったので、毎年、予算に無い経費として積み上がっていった。今の枠組みで見れば、資産が増えて回転率が下がることも、判断の材料に入っていなかったことになる。

もう1つは、削減額の比べ方だ。「年間〇円の削減」は、今のコストがずっと同じだという前提で計算していた。でも、業務の量も、やり方も、何もしなくても変わっていく。本当に比べるべきなのは、「今のコスト」ではなく、「この投資をしなかった場合のコスト」だ。前提がずれれば、削減額の数字も実態とずれる。何もしなくてもコストが下がっていく業務なら、削減額は大きく出すぎる。

それからは、システムの費用を、作るときの費用だけでなく、システムの寿命まで使い続けたときの分を、保守・運用費も含めて見積もるようにした。

今なら、それに加えて、3つを提案に書いてもらうと思う。途中で見込まれる改修、増える資産の金額、「やらなかった場合」との差としての削減額だ。改修は、中身によって会計上の扱いが分かれる。機能を足す改修は資産に積み増されて回転率をまた下げ、不具合の修正のように今の機能を保つための作業は、その年の費用になる。そのうえで、増える利益を増える資産で割り、今の稼ぐ力と比べる。保守・運用費は、作ると決めた時点で、翌年以降の予算に積んでおく。

効果がある投資でも、稼ぐ力を上げるとは限らない。提案の一行の外側に、毎年残り続けるものがある。

次に出す投資の提案には、増える資産と、毎年かかり続ける費用が書いてあるだろうか。

その削減額は、「何もしなかった場合」と比べた数字だろうか。

カンペ | 月曜から試せるヒント
  1. 投資の効果は、増える利益と増える資産の両方で測る

    削減効果で利益が増えても、資産がそれ以上に増えれば、本業の稼ぐ力 (正味営業資産利益率) は下がる。増える利益を増える資産で割り、今の稼ぐ力を上回るかを確かめる。

  2. 削減額は「何もしなかった場合」と比べ、維持費を引いて見積もる

    今のコストが続く前提で比べると、削減額は実態とずれる。費用は、システムの寿命までの保守・運用費を含めて見積もり、翌年以降の予算に積んでおく。

補足

もう少し深く知りたい人へ

本文では本業の部分に絞ったが、教科書は自己資本利益率全体の分解も示している。自己資本利益率は、本業の稼ぐ力に、借入による上乗せ分を足したものになる。借入による上乗せは、借入の大きさ (財務レバレッジ) と、本業の稼ぐ力が借入の税引後のコストを上回る幅 (スプレッド) のかけ算だ。本業の稼ぐ力がそのコストを上回っていれば、借入は自己資本利益率を押し上げる。下回れば、逆に押し下げる。借入は稼ぐ力そのものではなく、本業の稼ぐ力を増幅するものだ。だから、まず本業を見る。

正味営業資産は、営業負債を差し引いて計算する。顧客から先にお金を受け取る前受金や、仕入れ先への支払いを後にする買掛金が大きいほど、正味営業資産は小さくなり、回転率は高く出る。前払費用と期末の調整の記事で書いた前受収益は、受け取った側にとってはこの営業負債にあたる。年払いで先に代金を受け取るビジネスは、回転率の面でも有利になる。

日本企業でよく使われる投下資本利益率 (ROIC: Return on Invested Capital) も、本業で使っている資本に対する税引後の営業利益という点で、正味営業資産利益率と考え方は近い。部門ごとに投下資本利益率を目標にする会社では、本文の判断の目安は、部門の投資判断にも使える。

作ったシステムが使われなくなったとき、資産の残りを一度に損失にする除却や減損の扱いは、教科書では、固定資産の章で取り上げられる。

参考文献

  • Easton, P. D., Wild, J. J., Halsey, R. F., & McAnally, M. L. (2024). Financial Accounting for MBAs (9th ed., Chapter 4: Analyzing and Interpreting Financial Statements). Cambridge Business Publishers.

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