自分のチームの仕事は、会社の外でどう語られているか
ステークホルダーと決算説明資料
毎日の仕事に、お金を出している人は出てこない
マネージャーの仕事で向き合う相手の多くは、会社の中の人だ。上司に報告し、同僚と調整し、メンバーと1on1をする。顧客と話す機会はあっても、それは目の前の案件の話になる。
一方で、会社にお金を出している人のことを考える場面はほとんどない。株主や、お金を貸している銀行のことを考えながら週報を書いたことは、少なくとも自分にはない。予算は「会社から割り当てられるもの」で、そのお金がどこから来ているのかを意識することは少なかった。
財務会計の教科書の第1章を読んで、この「普段は出てこない人たち」こそが、会計という仕組みの出発点にいることに気づいた。
財務会計は、会社の外の人のための会計
会計には大きく2つある。社内の意思決定のための管理会計と、会社の外の人に向けて報告する財務会計だ。決算書 (財務諸表) は後者にあたる。
教科書は、財務諸表を「求める側」と「出す側」に分けて整理している。求める側は、会社の外にいる人たちだ。株主はお金を預け続けるかどうかを、銀行はお金を貸すかどうか、どんな条件で貸すかを決めたい。取引先や、これから入社を考える人も、この会社と付き合って大丈夫かを知りたい。
出す側は経営者だ。きちんと説明できれば、お金を集めやすくなり、条件も良くなる。一方で、競合に手の内を知られる、期待に届かなかったときに責任を問われる、といった出したくない理由もある。財務諸表は、その両方の力のあいだでつくられている。
決算説明資料は、会社全体で「成果を金額で示す」場だった
この章を読んだあと、自分の会社の決算説明会の資料を開いてみた。
社内で知っている取り組みが、違う形で語られていた。一つひとつの取り組みが、数字や目標と結びつけて説明されている。それぞれが中期経営計画のどこに位置づくのかも示されている。自分の部署の取り組みも出てきたが、単独の話としてではなく、会社全体の流れの一部として書かれていた。
普段の仕事でも、成果を金額で示すことは求められている。この施策でいくら削減できたか、いくらの売上につながったか。決算説明資料は、それを会社全体の規模でやったものだと感じた。しかも、ただ数字を並べているのではない。社内ではばらばらに見える取り組みを、外の人に伝わる言葉に置き換え、一本の筋書きにまとめている。部署ごとに目標を持ち、それぞれが自分の仕事をしている組織で、全体を一つの流れとして説明するのは簡単なことではない。教科書でいう「出す側」の仕事が、まさにこれだった。
語られているのは「預ける価値があるか」
資料を読み返すと、説明の軸が見えてきた。経営陣が語っているのは「何をやっているか」ではない。「預かったお金で、どれだけの利益を生んでいるか」「これからも預ける価値があるか」だ。
短期の数字と中長期の計画が並べて語られているのも、そのためだと思う。今期の利益だけを見せても、お金を出す人は判断できない。今の数字はどの計画の結果なのか。今の投資は、いつ、どんな形で返ってくるのか。その筋道があって初めて、預け続けるかどうかを決められる。
機会コストの記事で、中長期のテーマは「今日やらなくても誰にも怒られない」と書いた。社内ではそうかもしれない。でも会社の外から見ると、中長期の取り組みこそが「これからも預ける価値がある」理由になっている。
仕事の先にいる人を、チームと共有する
マネージャーとして大事だと思ったのは、このことをチームにも意識してもらうことだ。
毎日、株主や銀行のことを考える必要はないと思う。ただ、自分たちの仕事の先には顧客がいて、そのさらに先に、会社にお金を出している人たちがいる。そう意識するだけで、お金の見え方や、仕事を見る視座が変わる気がする。予算は「割り当てられた枠」ではなく「預かったお金」になる。成果を金額で示すことも、社内の評価のためだけのものではなくなる。
自分のチームでは、社内向けの取り組みについて、成果の金額を依頼元と明確に合意するように働きかけた。金額の大きさも大事だが、それ以上に、「この仕事は何を生むのか」を意識すること自体が大事だと思っている。金額を聞くことは、依頼元にとっても、自分たちが何を期待しているのかを言葉にする機会になる。成果を意識するのは、こちらだけではない。
その入口として、自社の決算説明資料や中期経営計画は使いやすい。社内の人も読めるし、自分のチームの仕事が出てくるなら、それがどの数字、どの目標とつながっているかを一緒に見られる。出てこないなら、どの取り組みの一部として扱われているのかを探せばいい。社内の評価とは別の物差しで、自分たちの仕事の位置が見えてくる。チームの仕事を上司や他部署に説明するときも、「何をやったか」に「どの数字につながるか」「会社の流れのどこにあるか」を添えるだけで、受け取られ方は変わるはずだ。
自分のチームの仕事を、会社にお金を出している人に一文で説明するとしたら、何と言うだろうか。
その一文は、会社全体の流れのどこにつながっているだろうか。
- 社内の取り組みは、経営陣が「お金を出す人の言葉」に翻訳して語っている
決算説明では、一つひとつの取り組みが数字や目標と結びつけられ、中期計画の流れの中に置かれる。語られているのは「何をやったか」ではなく「預ける価値があるか」だ。
- 社内の仕事でも、成果の金額を依頼元と合意する
金額の大きさより、「この仕事は何を生むのか」を双方が意識することが大事。仕事の先には顧客がいて、そのさらに先にお金を出す人がいる。
もう少し深く知りたい人へ
本文で触れた「会社の外にいる、関わりのある人たち」は、経営学ではステークホルダーと呼ばれる。R・エドワード・フリーマンは1984年の著書で、ステークホルダーを「組織の目的の達成に影響を与える、または影響を受ける、あらゆる集団や個人」と定義した。株主だけでなく、従業員、顧客、取引先、地域社会までを含めて経営を考える見方だ。
お金を出す人の中でも、株主の立場は少し特殊だ。会社が稼いだお金は、仕入先への支払い、従業員の給与、銀行への利息、国への税金と、順に出ていく。株主が受け取るのは、その全部を払ったあとに残った分だけだ。これを「残余請求者」と呼ぶ (ファーマとジェンセン、1983年)。最後に受け取るぶんリスクが大きいので、株主は銀行の金利より高いリターンを求める。損益計算書を上から読むと、この支払いの順番がそのまま並んでいる。
日本では、経済産業省が2014年8月に公表した「持続的成長への競争力とインセンティブ」プロジェクトの最終報告書 (座長の名前から「伊藤レポート」と呼ばれる) が、企業と投資家の対話を重視する流れをつくった。この報告書は、資本効率の目安として、ROE (自己資本利益率) が8%を超える水準を求めたことでも知られる。決算説明会で、短期の数字と並んで中期の計画や資本効率が語られる背景には、こうした流れもある。
参考文献
- Easton, P. D., Wild, J. J., Halsey, R. F., & McAnally, M. L. (2024). Financial Accounting for MBAs (9th ed.).
- Freeman, R. E. (1984). Strategic Management: A Stakeholder Approach.
- Fama, E. F., & Jensen, M. C. (1983). Separation of Ownership and Control. Journal of Law and Economics, 26(2), 301-325.
- 経済産業省 (2014)「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト最終報告書 (伊藤レポート)