古いチケットが残った一覧は、課題を隠す

情報システムで管理するということ

古いチケットが残った一覧は、課題を隠す(図解)

顧客からの催促

顧客から、催促の連絡を受けたことがある。チームでは、問い合わせ、運用の作業、開発の課題を、チケットで管理していた。一覧には、古いチケットが残っていた。

チケット制を入れたこと自体は、良かったと思っている。課題がわかりやすくなった。誰が何を抱えていて、どこまで進んでいるかが、一覧で見えるようになった。

それでも催促は起きた。一覧があるのに、なぜ見落としたのか。情報システムの教科書で、組織の管理と情報システムの関係を読んで、考えが整理できた。

管理の仕方は、情報システムで変わる

教科書は、情報システムが組織の形や文化だけでなく、管理の仕方も変えると説明している。ここでいう管理とは、仕事の状況をつかみ、それを評価し、必要な人に伝えて、仕事が望む方向に進むようにすることだ。

かつては、状況をつかむには、人に聞くか、報告を待つしかなかった。情報システムを使えば、状況はデータとして集まり、いつでも一覧で見られる。教科書は、こうした技術を通じた管理を「技術を介した管理 (technology-mediated control)」と呼んでいる。さらに進むと、仕事の割り振りや評価そのものをアルゴリズムが担う「アルゴリズムによる管理 (algorithmic management)」になる。章末では、運転手への配車や評価をアルゴリズムで行う Uber の例が取り上げられている。

チケット制は、この技術を介した管理の身近な例だ。課題の状況は、誰かに聞かなくても、チケットの一覧から読み取れる。

ただし、システムが集められるのは、記録されたものだけだ。そして、システムが数えやすいのは件数のような数字だ。管理がシステムを通るようになると、何を記録し、どの数字をどう使うかが、そのまま管理の質を決める。

件数は目安にとどめた

チケットには件数が出る。誰が何件抱えているか、何件片付けたか。数字があると、つい人どうしを比べたくなる。

ただ、チケットの重みはまちまちだ。問い合わせ、運用、開発では、1件にかかる手間がまるで違う。重みや規模を数字にできないかも考えたが、うまく定量化できなかった。チームのみんなも、件数だけでは正しく測れないことはわかっていた。だから件数は、全体の量をつかむ目安として使い、人を比べる物差しにはしなかった。

件数で人を評価するところまで進めば、それは小さなアルゴリズムによる管理になる。決まった計算で、人の働きぶりを数字にして比べるからだ。仕組みが評価まで担うと、働く人は、仕組みが数えるものに合わせて動くようになる。件数で比べれば、手間のかかるチケットが後回しにされ、早く閉じられるものから片付ける動きが出かねない。件数を目安にとどめたのは、どこまでをシステムに任せ、どこからを人が判断するかの線を引くことでもあった。

実態とずれた一覧は、何もない状態より危ない

催促の原因は、件数の使い方ではなかった。一覧そのものが、実態とずれていた。

チケットは、作られたあと、誰かが状態を更新し、終わったら閉じなければならない。それが止まると、一覧には古いチケットが残り続ける。本当に動いているものと、もう終わったもの、止まったままのものが、同じ一覧に並ぶ。

止まった理由は、特別なものではなかった。忙しくて、更新が後回しになる。終わっても、閉じ忘れる。一件一件は小さな抜けだが、積み重なると、一覧は実態から離れていく。

催促を受けたチケットは、1か月近く放置されていた。他の担当者に引き継いだつもりだったが、十分に共有できていなかった。担当を替えたことで、引き継いだ側では片付いた話になっていた。そのあいだも、チケットは一覧の中に残っていた。

一覧が何もない状態なら、状況がわからないので、人に聞く。ところが一覧があると、見ればわかると思ってしまう。ずれた一覧は、管理できているという思い込みを生み、本当に止まっている課題を隠す。顧客に言われるまで気づかなかったのは、そのためだと思う。

技術を介した管理は、状況をつかむ手間を、人に聞くことから、データを正しく保つことに置き換えた。手間がなくなったわけではない。チケットの登録、状態の更新、棚卸しまでを含めて、管理の仕事だった。

それからは、週に一度、チケットの棚卸しをするようにした。滞留しているチケットをリストアップし、一つずつ確認する。引き継いだチケットも、ここで誰が持っているのかを確かめられる。催促はなくなり、古いチケットも減った。担当者の側も、管理する側も楽になった。

棚卸しは、一覧を実態に合わせ直す作業だ。システムで管理するなら、システムの中のデータを実態に合わせ続ける仕事も、最初から管理の中に入れておく必要がある。

チームの一覧は、今の実態と合っているだろうか。

最後に、中身を一つずつ確かめたのはいつだろうか。

カンペ | 月曜から試せるヒント
  1. 実態とずれた一覧は、課題を隠す

    一覧があると、見ればわかると思い込む。システムで管理するなら、登録・更新・棚卸しまでを管理の仕事に含め、一覧を実態に合わせ続ける。

  2. システムの件数は目安にとどめる

    システムが数えられるのは件数のような数えやすいものだけ。仕事の重みは数字になりにくいので、件数で人を比べず、全体の量をつかむのに使う。

補足

もう少し深く知りたい人へ

「技術を介した管理」という言葉は、情報システムの研究で、組織の管理を技術がどう変えるかを整理するために使われている。クラムとウィーナー (2020年) は、技術を介した管理の事例を挙げ、組織の管理の研究がこれから取り組むべき課題を整理した。

アルゴリズムによる管理には、反発もある。ケロッグらの論文 (2020年) は、アルゴリズムが仕事の指示、記録、評価、報酬などを担うようになった職場を分析し、働く人がそれにどう抵抗しているかを論じた。データで管理するほど、何を記録し、どう評価に使うかが、管理する側と働く側のあいだの争点になる。本文の「件数で人を比べない」という判断は、この争点に、チームの中で先に答えを出しておくことでもある。

数えやすいものが評価に使われると何が起きるかは、古くから指摘されてきた。カーの論文「On the Folly of Rewarding A, While Hoping for B」(1975年) は、組織が本当に望む行動 (B) ではなく、測りやすい別の行動 (A) に報酬を与えてしまう例を数多く挙げた。望む行動が測りにくいほど、測りやすい代わりの指標に頼りやすくなり、人はその指標に合わせて動く。チケットの件数は、この A になりうる。

参考文献

  • Pearlson, K. E., Saunders, C. S., & Galletta, D. F. (2024). Managing and Using Information Systems: A Strategic Approach (8th ed., Chapter 3: Organizational Strategy and Information Systems). Wiley.
  • Cram, W. A., & Wiener, M. (2020). Technology-mediated control: Case examples and research directions for the future of organizational control. Communications of the Association for Information Systems, 46, 70–91.
  • Kellogg, K. C., Valentine, M. A., & Christin, A. (2020). Algorithms at work: The new contested terrain of control. Academy of Management Annals, 14(1), 366–410.
  • Kerr, S. (1975). On the folly of rewarding A, while hoping for B. Academy of Management Journal, 18(4), 769–783.

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